傍に居るなら、どうか返事を


※過去捏造のED後設定の成響です。それでも良いという漢前の方お願いします。



 アンタが好きだよ。
そう囁いた声は、まだ少年の面影を充分に持った甘い声だった。


 
 裁判は終わり、被告は無罪そして、冤罪は晴らされる。本当の意味での、七年間に渡った長い判決は今下されたのだ。
 兄が扉の向こう側へ消えて行くのを見て、王泥喜とみぬきに挨拶代わりの目配せを送り響也はその部屋を出た。足は、ごく自然に彼のいるであろう場所へと向かう。
 全てのお膳立てをした男『成歩堂 龍一』の元へ。
 観客ともいえる(陪審員)達は、投票を済ませて帰宅していることだろう。きっと、彼はひとりに違いない。
 響也の中には、確信めいた思いがあり、その場所、控え室の扉にしたノックに返事が来ることは無かったが、躊躇いなく扉を開けた。視線の先、ニット帽を捕らえて、やはりと響也は納得する。一歩、部屋に足を踏み込ませると、両手を背もたれに伸ばし身体を完全に預けた状態のまま、成歩堂は声を発した。
 
「済まなかったね。こんな事の片棒を担がせて。」

 飄々した、感情を含まない声。
 此処に響也が来るであろう事も、そうやって問い掛ける事も彼には周知の事実という風情だ。振り返る事もなく、話し続ける。
「君が協力してくれるかどうかは、賭けだったんだが。まあ、こうなったか。」
 くくと低い含み笑いが、小さな部屋に響く。響也は、蝶番に未だ手を置いたままで眉を寄せた。視線を後方へ向け、誰もいない事を確認してから身体を部屋へと滑り込ませてから扉を閉じる。
「…御剣検事からの直々の指名だったし、断る理由もない。 
 例えアニキが被告人だったとしても、僕が愚かだったとしても真実を追究するのが僕の仕事であり、信念だ。」
「ああ、そうか。そうだったね。(真実が知りたい。)君は昔からそう言い続けていた。」
 感謝している。しかし、成歩堂はそう告げた。
「君は僕からの感謝の言葉なんか、聞きたくもないだろうけれど。」
 自嘲の色が混じった言葉に、意を得たように響也は指を突き付けた。それは、法廷で相手に異を唱える際にする仕草だ。

「俺はアニキの事を臆病者だと言ったけど、あんたもそうだ。」

「ほぉ?」
 初めて興味を持ったというように、成歩堂は振り返る。
 薄い笑いを貼り付けた顔は、響也を見ているようで見ていない。真っ直ぐに視線を返す響也とまるで対象的だ。

「それは、どういった行為に対しての根拠かな、牙琉検事。」
「僕の口から説明がいるのかい? 元弁護士さん。」
「…いや、やめておこう。罪状は認めるよ。それも未成年者相手だ、重罪だな。」
「茶化すような言い方は止めてくれないか!?」
 ダンと左手で壁を叩くと、響也は成歩堂を睨み付ける。笑みを崩すことのない成歩堂の瞳が、微かに揺れた。
「好きだと言いだしたのは僕だ。其処に何の異論もないよ。」


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